歴史民俗研究部会 #3 「古代日本の人口」

2022年8月29日(月)、国際デザインセンター内会議室をお借りして、3回目の歴史民俗研究部会を開催した。指南役のA. Watanabeさんの帰省に合わせての開催である。6名出席。

今回は、Watanabeさんより7月に開館した茅ヶ崎市博物館の話を伺った後、「古代日本の人口」をテーマに、詳細な統計データを元にした非常に興味深い話を伺った。以下、私なりの要約。


古代 (奈良時代頃) の日本では、尾張、美濃、武蔵、越後といった「国」があり、その下に「郡」、さらにその末端に「里」という行政組織 (租税徴収のための単位) が存在した。この「里」と表記するようになる前は「五十戸」と書いて「さと」と読んだそうで、50戸で1つの里が構成されていた。そして、1つの「戸」には20人の人が暮らしていた。直系の家族だけでなく兄弟姉妹の家族も集う大家族だったのだろうか。当時の家は竪穴式住居で、一つの「戸」には複数の住居があった。20人×50戸=1,000人なので、1つの「里」の人口は1,000人程度だったと推定される。その後、時代を経て「里」は「郷」と表記されるようになっていくが、この辺りはややこしいので省略する。

平安時代の中期、源 順が編纂した「和名類聚抄」という当時の辞書のような書物には、「国」ごとに「里 / 郷」の名前が網羅的に書かれている。それによると、例えば尾張国には69、美濃国には131、伊勢国には94の「里 / 郷」があり、全国で集計すると4,045となる。これに1,000人を掛け算すると、当時の日本の人口は4,045千人と推定できるという。ただし、この数値には北海道、琉球は含まれない。

さて、ここで当時の「国」の面積がわかっているので、人口密度の計算ができるのだ。

例えば、伊勢国は、面積231.15方里=3647.55㎢、人口94,000人なので、人口密度は25.77人/㎢となる。現在の三重県は、面積5,774.47㎢、人口1,755,415人(2020年10月1日現在の国勢調査速報値、以下同じ)。よって人口密度は304人/㎢なので、伊勢国と比べると11.8倍である。三重県には伊勢国のほか伊賀国、志摩国、それに紀伊国の一部を含むのでもう少し倍率は下がると思われるが、まあそんなものかなと思う。ちなみに、全国 (北海道、琉球を除く) の人口密度の平均値は24.5人/㎢で、今のニュージーランドやフィンランドと同じくらいだった。

面白いのは越後国+佐渡国、今の新潟県。越後国は面積12,107.84㎢、人口34,000人、人口密度2.81人/㎢。佐渡国は面積889.05㎢、人口22,000人、人口密度24.75人/㎢。二つの「国」を合算すると、面積12,996.89㎢、人口56,000人、人口密度4.31人/㎢となる。一方、新潟県は、面積12,584㎢、人口2,176,879人、人口密度172.99人/㎢なので、新潟県の人口の密集度は、平安時代中期と比べて約40倍となる。

次に、人口密度の偏りについてみてみる。古代と1888年、2020年の3時点で人口密度の標準偏差 (人口偏差) を比較した表・グラフを提示してもらった。ここでは、古代の「国」別にみた上位と下位のランキングを示す。

人口密度 (人/㎢) / 人口偏差値 古代 上位

  • 河内国 115.25 / 97.44 (大阪府)
  • 壱岐嶋 79.12 / 78.55 (長崎県)
  • 山城国 68.50 / 73.00 (京都府)
  • 安房国 58.17 / 67.60 (千葉県)
  • 摂津国 65.14 / 53.48 (大阪府)
  • 讃岐国 63.41 / 50.14 (香川県)
  • 和泉国 60.95 / 45.44 (大阪府)

人口密度 (人/㎢) / 人口偏差値 古代 下位

  • 越後国 2.81 / 38.66 (新潟県)
  • 飛騨国 3.07 / 38.80 (岐阜県)
  • 日向国 3.47 / 39.01 (宮崎県)
  • 出羽国 3.49 / 39.02 (山形県)
  • 信濃国 4.97 / 39.79 (長野県)
  • 陸奥国 5.13 / 39.88 (福島県、宮城県、岩手県、青森県)

これをみると、古代は、河内、山城、摂津、和泉などヤマトの中心であった畿内、特に今の大阪や京都のあたりに人口が集中していたことがわかる。一方、内陸部や東北から北陸地方では人口はまばらであった。といっても、古代の「国」の中で一番人口が密集していた河内国の人口密度は115.25。これは今の山形県くらいなのだ。そして最下位の越後国はモンゴル並みだったのだから、現在とはまるで比較にならない。


ここまでWatanabeさんによる「古代日本の人口」のお話の紹介。

ところで、人口密度と出生率には関係があるという説がある。韓国では首都ソウルに人口が一極集中し、人口密度が極度に高くなった結果、出生率がどんどん下がっていったというのだ。どういうメカニズムなのだろうか。

「出生率0・81」韓国から日本が学ぶべきこと(毎日新聞 2022.10.8)

「根本的な原因は、人口密度です。若者の人口が最も大きな都市に集中している比率が高ければ高いほど、その国の出生率は落ちてしまう」「ソウルを中心とした首都圏への一極集中こそが、世界最低水準の出生率をもたらした」「韓国では全人口約5200万人の半分にあたる約2600万人が首都圏に住んでいる。釜山や大邱、光州といった地方の拠点都市との差は開く一方だ」「しかも今は、SNSや交通網が発展している。地方で育った学生は、ソウルと自分たちの町の発展ぶりが、あまりにもかけ離れているのを知り、ソウルにある大学を目指すようになった。地方にある大学は今、運営が大変」「若者が押し寄せるソウルでは、当然、就職競争は激しくなる。人口集中による不動産高騰も深刻だ。3LDKタイプで1億円を超える物件はざら。とても手が届かない。自分が生きていくのに精いっぱいなのに、さらに結婚して、子どもを育てるという選択自体ができなくなっている」・・・

今の日本はそこまでひどくはないが、「億ション」が話題となった80年代のバブル期にはこの記事に書かれた韓国の状況に近かったのではないだろうか。

一人っ子政策をやめても出生率が一向に上がらない中国でもこれとよく似た状況が起こっているようだ。合計特殊出生率は1.3まで下がったという。これは全国の値なので、北京や上海などのメガシティではもっと下がっていると思われる。

中国の「出生率」、建国後の最低記録を更新の衝撃 (東洋経済 2021.12.7)

日本、韓国、中国、それに香港や台湾も含めた東アジアで少子化・高齢化、そして人口の減少が急速に進んでいく。しかし、もしその過程で、大都市から地方都市へ、地方都市から田舎へと人口が分散していったならば、居住環境、生活環境にゆとりができて、大都市でも地方都市でも田舎でもだんだん住みやすくなっていくのではないか。そうなれば、本当の意味で「地方の時代」の到来だ。

韓国も日本も中国もいがみ合っている場合ではない。協調して人口問題に取り組むべし。

2022.10.12 M. Hayashi

2年前