例会の記録 2025年3月 マイクロバイオーム

3月19日(水)、スペーシアにて例会を開催した。出席者はリアル4、リモート1、計5名。スピーカーは私。テーマは「マイクロバイオームのお話」とした。

私たちヒトの皮膚や消化器官の内壁には、常在菌がびっしり付着している。常在菌とは、その環境に適応して生息している細菌のこと。消化器官では、口腔から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と続き、肛門に至る臓器の内壁に適応した細菌が住み着いている。顔、頭髪、耳、鼻、手、足の裏、脇の下、陰部などの皮膚にも、それぞれ個性的な細菌が棲んでいる。ヒトは細菌(バクテリア)と共同生活しているのだ。その数は莫大で、人間の細胞の数を上回るという。

こうなると、ヒトという存在の捉え方そのものを再考しないといけなくなる。ヒトは単独で生きているのではなく、細菌をはじめとする多数の生物 (微小なダニ、寄生虫なども含む) による共同体「マイクロバイオーム」なのである。これを「ヒトマイクロバイオーム / human microbiome」と呼ぶ。当然ながらヒトだけではなく、他の哺乳類にも鳥類にも爬虫類にも、昆虫にもカタツムリにもミミズにもマイクロバイオームは存在する。

同様に、植物も細菌や真菌類 (キノコ、カビの仲間) と共生している。陸上の植物の場合は、特に「根圏」と呼ばれる根の周囲に真菌類 (菌根菌) と細菌が集まっている。これを「根圏マイクロバイオーム」と呼ぶ。ヒトの大腸に多数の腸内細菌が棲んでいるのに似ている。

植物は、光合成によって炭水化物を生成し、その一部を根の周囲から地中に滲出させている。根の周囲に菌根菌がびっしり取り巻くのは、この炭水化物を得るためだ。菌根菌の中には、菌糸を根の中に潜り込ませるものもいる。菌根菌と共生している細菌は、真菌類が体内に取り込んだ有機物を分解し、無機化する。植物は、こうして無機化されたミネラルなどの物質を菌根菌を通して根から水と一緒に吸収し、栄養とする。窒素、リン、カリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛など植物の成長に欠かせない栄養素は、こうしたプロセスを経て植物に取り込まれる。

以上が自然界の植物でみられるマイクロバイオームの世界である。では、栽培植物ではどうか。しっかり耕され、化学肥料が施用された畑では、あらかじめ無機化された窒素などの栄養素が土壌に含まれるので、「真菌類が取り込み、細菌が分解し、植物の根が吸収する」プロセスを必要としない。つまり、根圏マイクロバイオーム自体が不要となる。

しかし、化学肥料に必要な栄養素がすべて含まれるかというとそうではない。米国では、過去と比較して農産物や畜産品の栄養価、特に微量栄養素の含有量が下がっているという報告がある。これは日本も含め世界的な傾向だという指摘もある。これこそ、化学肥料に依存した無機農法 (こんな言い方はないと思うが) の弊害ではないか。

・・・このあと、不耕起農法、環境再生型農法、スラッシュ&チャーの話へと進むが、長くなるのでこのあたりでお終いとする。尻切れとんぼ。

M. Hayashi 2025.6.15

※ 写真は、とうもろこしの葉にとまったカマキリの赤ちゃん

5か月前