例会の記録 2022年11月 「居場所のマネジメント」の復習と深掘り

11月18日(金)、スペーシア会議室にて11月例会を開催。出席者は、リアル4名、リモート3名の7名。この日のテーマは、『「居場所のマネジメント」の復習と深掘り』とした。9月の例会で、中京大学経営学部 向日恒喜教授に「居場所のマネジメント」と題してご講演いただいた中で、我々のテーマである「居心地」に関連して、

「優越感や居場所にしがみついて、自分の正直な感情に気づけなくなっているとき、
 居心地の良い場所へ行くことで、正直な感情に気づくことができるかもしれない」

という仮説を提示していただいた。では、「自分の正直な感情に気づける居心地の良い場所」とはどんな場所なのか、自由に意見交換を行った。以下、いくつか面白いと思った意見を紹介する。

  • 特に仲間でも知り合いでなくても、そこに人がいることで繋がっているような気になる。

例えばショッピングモールのフードコートに一人で行ったとしよう。窓際の席を確保し、店を決めて店頭で注文して席に戻り、発信機がビビッと鳴ったら料理を取りに行き、周囲の家族連れや高齢のご夫婦、女子高生のグループなどに混じって静かに食事をし、コーヒーを飲み、本を読んだりスマホをいじったりしているだけだが、そこで孤独は感じない。でも、もしそこに自分だけしかいなかったらどうだろうか。あるいは、言葉が通じない外国人ばかりの中に一人でいたらどうだろうか。

  • 職場の「たばこ部屋」に通う喫煙者には独特の仲間意識があり、人事など機微な情報が密かに流通したりする。ちょっと悪いことをしているという共犯者の感覚。それが嬉しいみたい。

これは私見だが、「たばこ部屋」には面白い歴史がある。2000年代以降、駅の周辺や繁華街などエリアを決めて路上喫煙や歩きたばこを禁止する自治体が増えた。しかし、これは主として環境や安全の観点での規制であって、喫煙者を減らそういう意図はなく、また喫煙者の健康面への配慮でも非喫煙者の受動喫煙への配慮でもなかった。「たばこは室内で吸って、吸い殻は灰皿へ捨てよ」みたいな感じ。一方で、環境の観点から職場での喫煙に関しても徐々に問題視する声が大きくなったが、禁煙者の権利も尊重せよという声も大きかった。「たばこに害があることはわかっとる。自己責任だろう。ほっといてくれ」という主張。その結果、妥協案として空気清浄機が設置されるようになったが、職場での喫煙は減らないし、たばこの臭いは相変わらず。しかも灰皿を片付けるのは女性だ。

その後、女性の地位向上の動きとも相まって、職場での喫煙を制限すべしという声が強くなった。そこで登場したのが「たばこ部屋」である。当時、喫煙者はほとんどが男性で (女性喫煙者は職場では吸わない)、特に管理職など地位の高い男性は例外なく「たばこ部屋」の利用者だったのではないだろうか。「たばこ部屋」の仲間だけで共有される秘密・・・。非喫煙者にはそうした情報は届かない。かくして「たばこ部屋」は、職場の主流派に属する人たちの居場所になっていった。しかし、それも長くは続かない。たばこの健康への害に関する理解が広まり、WHOによる国際的な受動喫煙防止への圧力が高まったことにより、喫煙者の権利を擁護すべしという声を上回るようになっていった。その結果、「たばこ部屋」は減らされ、各階にあったものが集約され、屋上などに追いやられていった。

そして2020年4月、受動喫煙を防止する改正健康増進法が施行され、いよいよ職場内の「たばこ部屋」は撤去。併せて敷地内でも禁煙ということになり、敷地の外でしかたばこを吸えなくなったが、そこは路上喫煙禁止だったりする。喫煙者受難の時代。喫煙者自体も減少の一途を辿るかにみえた。そんな中で電子たばこが登場。話はややこしくなっていくので、次に進む。

  • 日頃抑えている感情を開放できる場所が心地良い居場所になる。

自分の正直な感情に向き合える場所。重しになっているものを解き放ってくれる力を持っている場所。例えば居酒屋。アルコールの勢いを借りて上司に言いたいことをぶちまける。たまたま居合わせた人と仲良くなって、カラオケを楽しむ・・みたいな感じだろうか。これはよく理解できる。

  • 多様な人たちに「寛容なまち」をどのように作っていけば良いかを知りたい。

まちづくりの世界では、人種や宗教、世代や所得水準の異なる人たち、さらにLGBT、最近ではQが加わってLGBTQの人たちを含め、多様な価値観や嗜好をもった人たち全てにとって居心地の良いまちを作っていこうという機運が高まっているようだ。そうした意味で、「寛容さ」は、都市の魅力を測る上で必須の条件になりつつあるように思う。

そうした観点で、少し古くなるが、LIFULL HOME’S総研が2015年にまとめた「Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」は参考になると思う。以下、目的と調査項目を抜粋させていただく。

(表紙は、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンかな。)

今回の調査の最大の目的は、「都市における官能的な体験の実際をつかむ」という点にある。 我々が展望したのは、例えば保育所や図書館の数のような「公共施設の整備状況」や、合成特殊出生率や犯罪率、高齢者人口比率といった「人口データ」などの客観的な指標で 把握される都市ではなく、かといって「あなたは◯◯市の教育施策についてどの程度満足していますか」といった、固定的な指標に対する主観的評価で描写される都市でもない。 都市に住み、暮らす人が、日常どのような体験をし、どのように都市を感じ、どのような気持ちで過ごし、どのように愛着を持つのかを、素手で鷲掴みするように把握できないか。 昨今、マーケティングの分野で「体験」と呼ばれている概念を、 リアルな納得感とともに、都市について展開できないか。それらの「体験」を積み上げる方法で、都市の実相を可視化できないか。

Prologue PART. 2 本プロジェクトの動機と調査設計の思想 より

評価項目:

1) 共同体に帰属している

  • お寺や神社にお参りをした
  • 馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった
  • 買い物途中で店の人や他の客と会話を楽しんだ
  • 地域のボランティアやチャリティに参加した

2) 匿名性がある

  • カフェやバーで 1人自分だけの時間を楽しんだ
  • 平日の昼間から外で酒を飲んだ
  • 夜の盛り場でハメを外して遊んだ
  • 不倫のデートをした
  • お寺や神社にお参りをした

3) ロマンスがある

  • デートをした
  • ナンパした/された
  • 路上でキスした
  • 素敵な異性に見とれた

2) 機会がある

  • 刺激的で面白い人達が集まるイベント、 パーティに参加した
  • ためになるイベントやセミナー・市民講座に参加した
  • コンサート、クラブ、演劇、美術館などのイベントで興奮・感動した
  • 友人・知人のネットワークで仕事を紹介された・ 紹介した

ここまで引用でした。

最後に、新潟市の上古町商店街が面白いという話をT. Mizunoさんから伺った。行ったことがないので様子がわからないが、シャッター商店街の活性化の観点では、名古屋の円頓寺商店街が全国的にも有名だし、今や大賑わいの大須商店街もかつてはシャッター街だった。商店街は、どれだけ上手にマネジメントしても、店主が異なり、完璧に統制できない以上、どうしても多様性を包含することになる。その点で、多様な価値観や嗜好を持った人を受け入れる「寛容で心地よい居場所」になり得るポテンシャルを持っているのだと思う。

2022.12.12 M. Hayashi

※冒頭の写真は、京都市の出町舛形商店街の風景。12月撮影。

2年前