5月の例会は27日(金)、スペーシア会議室にて開催した。出席者はリアル5名、リモート3名の計8名。この日はT. Sakuraiさんに「居心地のよいまちなか」と題してお話を伺った。以下、私なりの要約。
「市街地に人を呼び戻すにはどうすれば良いか」、「寂れてしまったまちの中心部に人を呼び戻すにはどうすれば良いか」・・・そこにはイノベーションに加え、人間中心の視点が必要である。つまり「居心地」をよくすること。そのためのキーワードの頭文字はWEDOだそうだ。
- Walkable・・・歩きたくなる。安心して歩ける。
- Eye-level・・・視線の高さをガラス張りにする。
- Diversity・・・多様な用途が混ざっている。
- Open・・・芝生やカフェ、椅子を置くなど。
では、「まちの居心地」を良くするには具体的にどうすれば良いか。ヤン・ゲールという学者は、野外活動を「必要行動」「任意行動」「社会活動」の3つに分類し、「まちの居心地」をよくするには「任意行動」と「社会行動」を活発化させることが重要であるという。そのためには、パブリックなスペースをうまく活用することが求められる。
例えば、名古屋市内にはパブリック・スペースがたくさんある。道路、公園、水辺、そして「公開空地」。しかし、この「公開空地」があまり活用されていないのが実態らしい。
ここで、「公開空地」とは何なのか整理しておこう。
公開空地(こうかいくうち)とは、オープンスペースの一種。1971年に創設された総合設計制度に基づいて設置され、開発プロジェクトの対象敷地に設けられた空地のうち、一般に開放され自由に通行または利用できる区域のことを言う。有効容積に応じて、容積率割増や高さ制限を特定行政庁が緩和する。(Wikipedia)
要するに、ビルなどの敷地内に設けられたオープンな空地で、自由に通行してもいいし、ベンチに座って弁当を食べてもいいし、友人とだべってもいい・・・そんな空間。確かに名古屋市内にはたくさんありそうだ。公開空地を設けることで容積率が割増になったり高さ制限が緩和されるとすれば、オーナーにとっては有利なはず。しかし、その公開空地を有効に活用しようとすると余計な経費がかかったり、人手が必要になったりするので、オーナーとしてはあまり気乗りがしない。制度を利用はしても、あとはほったらかしになりがち。公開空地は多数あっても、居心地のよい公開空地は少ない。
その理由について、Sakuraiさんは、しくみ・制度の問題が大きいと力説する。
「総合設計制度」は自治体である程度自由に決められるようだ。だったらもっと公開空地が有効に活用されるように見直せば良い。それでは「居心地の良い空間」とはどのような空間なのだろうか。ここで再びヤン・ゲールが登場。ゲールの著書”Cities for People”には6つの要素が紹介されている。
- 歩く・・・木陰や遊歩道、安全であること。
- 立ち止まる・・・人は窪みや端っこで立ち止まる。安心感が得られるから。
- 座る・・・椅子やテーブルがうまく配置されていると、つい座ってしまう。
- 見る・・・人の視界が届く100m、顔の認識ができる25mを意識する。
- 聞く・・・車がいないベネチアのまちでは、さまざまな音が聞こえる。
- 話す・・・L字型のベンチの方が正面より話がしやすい。
こうした観点で居心地の良い空間を探してみると、名古屋市内でもいくつか候補が挙がるが、居心地の良い空間にしていくにはそれなりの投資も必要だし、とりわけ運営には工夫が必要になりそうだ。
ここで海外の先進事例の話を伺った。ニューヨークのブライアント・パークである。この公園は、周辺の地主が組織したBryant Park Corporation (BPC)というNPOが運営している。Webサイトを見ると、とにかくすごい。映画、ピンポン、チェス、ペタンク、ジャグリング、ストリートピアノ、麻雀、ビンゴ、演劇といったアクティビティや出し物が山ほどあり、さまざまな飲食店、食材、雑貨、アパレル、アクセサリーなど魅力的な店も目白押し。広々とした芝生広場には椅子やテーブルが置かれ、大勢の人が思い思いに時間を過ごしているが、これらの椅子やテーブルは備え付けではなく貸し出されているのだそうだ。しかも無料で。こうなると自分で好きな位置に椅子などを置くことができるので、人の密度の割には居心地が良くなるという仕掛け。
出席者からの意見を少しだけ紹介しておく。
- 名古屋の中心部では座って休憩できる場所がなさすぎる。
- 公開空地の活用を促すには、商業利用を認めることがポイントではないか。
- 東京の「大丸有」では、不動産会社がリードし、ビルに入居する錚々たる大企業の社員が「丸の内朝大学」やSDGsに向けた環境活動など先進的な取り組みを行なっていると聞く。ブライアント・パークに少し似ている。
今回のお話は、まちづくりの視点から「居心地」について考えるきっかけになった。他にも色々と視点はありそうだ。今後、研究会のテーマとして深掘りしてみたい。
2022.6.16 M. Hayashi