例会の記録 2020年9月 「ヤマイヌ信仰とオオカミ」「慣行農業」

9月18日(金)、いつものようにスペーシアさんの会議室をお借りして、9月例会を開催。出席者はリアル9名、リモート3名の12名。この日はプレゼンが2題。T. Mizunoさんによる「ヤマイヌ信仰とオオカミ」とK. Morimotoさんによる「慣行農業について」。


ヤマイヌ信仰とオオカミ (T. Mizunoさん)

3月に定年退職するまで、転勤族で、山に関わる仕事をしていたので、日本各地の山間部を見て歩いていたら、あちこちで、日本では明治時代に絶滅したとされるオオカミの痕跡に触れることがありました。最後の赴任地の山梨県甲府市に住んでいた頃、隣接する奥秩父奥多摩地区がヤマイヌ(=オオカミ)信仰のメッカなのは知っていたのですが、反対側の静岡県にも同じような信仰があるのを知り、ならばこのふたつのエリアに挟まれた山梨にも当然ヤマイヌ信仰やオオカミがいた痕跡があるに違いない、そう確信し、見付けたもの、たどり着いたもののご紹介です。

長くなるので端折りますが、奥秩父では三峯神社、奥多摩では御嶽(みたけ)神社がヤマイヌ信仰で有名で、オオカミが農業被害を起こすイノシシやウサギなどの獣を追い払うことから農業の神とされたことなどから、関東甲信地域には、これらの神社に代表者を派遣してお札をいただいたりする「講」が今でも広く行われています。「講」としては富士山が有名ですが、どちらも山岳信仰の流れのひとつだと思われます。

この「講」は江戸時代に爆発的に広がったようですが、これはかつて疫病は原因がわからず、キツネがつくことから起きると信じられていたので、やはりキツネを追い払うオオカミが効く、という連想なのでしょう、祈祷師がオオカミの頭骨のミイラを掲げてお祓いをしたり、削って飲ませたりしたそうです。

三峯神社

山梨にもそのミイラがまだ受け継がれているお宅があるようです。こういった情報は、オオカミに興味がある、ということをあちこちで言いふらしていたら、北杜市の歴史民俗系資料館がタイミングよく動物に関わる信仰を特集した展示会を開催するという情報が事前に入り、この一連の行事に参加して得ることができました。著名な研究者の講演を聞いたり、市内の関連遺跡などを見て回るツアーに参加、その中で前掲の三峯神社を訪問するツアーにもエントリーすることができ、学芸員さんの説明や神社前の博物館で最近のオオカミ情報(近年のオオカミと思われる動物の写真や動画まで!)を入手することができました。

オオカミの頭骨(長野県上田高校にて)

そんな中、甲斐市にある小さな本屋さんを覗いてみたら、充実した品揃えの中に、『オオカミの護符』(小倉美惠子著、新潮社)という本を見付けて購入したのですが、これがまた目から鱗の内容で、川崎市に住む女性が書いた農民文化とオオカミ信仰の関りを緻密な調査をもとに非常によく整理したものだったので、感動しました。

オオカミの護符

複雑研の例会ではこれらの中からトピックス的なものを報告させていただきました。

そして最後に付け足したのは、オオカミと犬との関係です。

日本人は、縄文時代、あるいはそれ以前から犬を飼って共存していたわけですが、これは人になついたオオカミ、ということですね。オオカミとイヌは交配できるらしく、遺伝子的にも大きな差はないという報告もあります。柴犬や甲斐犬などの日本在来犬は、猟師が狩りに向いた特性を持たせるため、古来、発情期になった飼いイヌのメスを野山に置いてきてオオカミに交配させて作った、という話が伝わっています。なので、ニホンオオカミは絶滅したと言いながら、実は在来犬という形で残っていると思うと・・・。

まあざっとこのようなとりとめもない話をさせていただいて、お茶を濁したと言うわけです。

(T. Mizuno)


慣行農業について (K. Morimotoさん)

シェア農園に取り組む複雑研有志向けに、「慣行農業」の概説をしていただいた。以下、内容にはあまり触れず、感想を記す。

一般の人には、この言葉自体が馴染みがないが、「慣行農業」とは、要するに普通に行われている農業のこと。時代によって、また国や地域によっても異なると思われるが、現代の日本では、農業機械を多用し、見た目もサイズもきちんと揃った農産物(規格品)を大量に生産する農業であり、大規模なスーパーマーケットなどを出口とする大ロットの流通に適応してきた。

慣行農業では化学肥料(早く大きく育てる)や農薬(雑草を絶やし、病害虫を殺す)を使うことが必須となる。その弊害はいろいろある。土壌の生態系が貧相になり(ミミズ、ダンゴムシ、土中微生物などがいない / 極端に少ない)、作物の耐病性が低下する。連作障害が起こる。また残留農薬によるアレルギーなどが指摘されている。土壌の侵食、地下水の汚染など環境保全上の問題も多々あるようだ。

一方、Morimotoさんが取り組む無農薬・無化学肥料の農法はどうか。そもそも「有機農法」や「自然栽培」など様々なバリエーションがあり、呼び方も統一していない(以下では「有機農法等」と呼ぶことにする。)。英語では「Organic Agriculture」というのだろうか。⚪︎化学肥料や農薬をまったく使わない。⚪︎農薬は必要に応じて少しだけ使う。⚪︎堆肥を使う。⚪︎堆肥も化学肥料も使わない。⚪︎そもそも不耕起で農地を耕すことすらしない。…など多種多様であるが、ただ一点、「慣行農法」を否定する点では一致しているように思う。それと、小規模で、農家が消費者と直接顔のみえる関係を築こうとする点では共通しているように思う。

さて、スケールメリットを追求する「慣行農法」と農家と消費者の顔のみえる関係を志向する小規模な「有機農法等」を比較すると、現在は、前者が後者を圧倒している。しかし、米国などでは農家と消費者が顔のみえる関係を築く「コミュニティ支援型農業」(CSA)がかなり普及しているという。日本でも大都市圏を中心に、有機農産物の宅配や通販を手掛ける事業者が増えており、注目を集めている。

私たちは、「有機農法等」は、価格や品揃えの面を徐々に改善していけば、エネルギー消費や環境保全面で優れている点に加えて、「地産地消」や「農家と消費者の顔の見える関係」などが評価され、いずれは「慣行農業」を圧倒して伸びていくと信じている。克服すべき課題は山ほどあるが、私たちは、その道のりができるだけ短くなるよう、微力ながら応援していきたいと思っている。

(M. Hayashi)

2020.11.26 T. Mizuno, M. Hayashi

2か月前