例会の記録 2019年7月 里山の持続可能性

7月16日(火)、中京テレビ放送のM. Kojimaくんにお世話になり、滅多に見られないスタジオ見学(舞台裏を見せていただくと面白いです。写真は撮ったのですが、ここには掲載できません。悪しからず。)のあと、19:00より例会を開催。11名参加。この日は「里山の持続可能性」をテーマとし、以下のとおり3名からプレゼンをしていただきました。

  • 自遊季楽会: 里づくりをベースとした地域活性化活動 〜M. Kanekoさん
  • 森イキ! デザイニングプロジェクト in 設楽町(なごや環境大学) 〜M. Suginoさん
  • 炭焼きの話 〜M. Hayashi(私)

以下、プレゼンの内容にも触れつつ個人的な感想を書きます。

「里山」という言葉は、2005年の愛知万博の頃から普通に使われるようになったのではないかと思う。あの頃は、瀬戸の「海上(かいしょ)の森」が何かと話題になり、天然林ではなく人の手が入った山林だけど、スギやヒノキを植林した人工林とは違う。これは里山なのだ。よって開発して万博会場にせず保存すべきだ、といった主張がなされた。しかし、里山などという言葉は聞いたことがない。

「海上の森」には、オオタカやシデコブシといったレッドリストに載っている貴重な動植物が生息しているらしい。それは確かにひとつの論拠である。だから保存すべしというのは一応理解はできるが、それだけか? そもそもなんで里山なのか。里山の里山である所以は何か。「そこらの山」とどう違う? そんなに貴重なものなのか?

当時、上述のような論争があったと記憶している。結果的には「海上の森」は開発を免れた。その一方で、「そこらの山」は宅地や道路や近年では太陽光発電のためにどんどん開発され続けている。保存すべき里山と開発しても良い里山の違いはあるのだろうか?

そこで「里山の持続可能性」について考えてみたい。里山が自然林には戻らず、人工林にもならず、開発行為の対象にもならず、いつまでも里山であり続けるためには、どんな要件が必要なのだろうか? そして、それは現代の日本社会で実現可能なのだろうか?

戦中・戦後、里山の雑木林は、それ以前をはるかに上回るペースで伐採された。その主な用途は燃料だった。石炭や石油など化石燃料が不足し、軍需工場でも薪や炭が使われた。田舎道では馬力の足りない「木炭バス」が走り、坂道では子供達が後ろから押した。

父に聞いた炭焼きの話。家ではあちらこちら十数か所に雑木の山を持っていて、毎年、晩秋の11月から3月にかけて、そのうちのひとつの山で炭焼きを行った。1シーズンでひと山の雑木をほとんど伐採してしまったそうだが、そのまま放置しておけば、次に回ってくる十数年後にはすっかり元のように育っている。つまり、十数年に1回、それぞれの山の雑木は炭や炭焼きの燃料になるが、次に番が回ってくるまでにすっかり成長しているというわけ。これぞ持続可能性である。これが5年に一度だとたぶん続かないし、また、もともとその地にふさわしい植生である広葉樹林だからできることであって、針葉樹林では無理だ。

では、薪用に木を伐ったり炭焼きをまったくしないと里山はどうなるか? たぶん、里山ではなくなり、人との関係性が特にない普通の自然林に戻っていく。日本の里山はそうなっていけば良かったのだと思う。しかしそうはならず、戦後、スギ、ヒノキの大植林キャンペーンが行われた結果、もともと広葉樹主体の里山の雑木林は、すっかり針葉樹の人工林になってしまった。そして今、人工林としての経済的価値すら失った山林は、スギ、ヒノキの植林とそこに孟宗竹が侵入する「そこらの山」になってしまった。

Kanekoさんの「自遊季楽会」は、うまくいけば「そこらの山」を「里山」に戻していくための有効な取り組みになっていくと思う。職場や地域の縁で集まった多くの人が里山の恵みを活かす暮らしを楽しみながら実践する。その過程で、里山と人とのつながりだけでなく、人と人とのつながりもできていく。

今回、Suginoさん始めなごや環境大学の皆さんが中心となって設楽町で始める「森イキ! デザイニングプロジェクト」も、目指すところは同じなのかもしれない。森が活きる。森を活かす。人と森との持ちつ持たれつの関係性を取り戻そうという試み。そこにデザイン思考の手法を取り入れる。

里山を維持するために必要なことは、適度に木や竹を伐ったり役に立つ植物を保護したり、鹿やイノシシなど野生動物を獲ったり、あれこれ人が関与し続けることなのだろうと思う。でも、それを現代社会で実践しようとすると必ず直面する問題は、本来、里山の恵みであった薪や炭、竹がかつてのような価値を失っており、用途が見つからないことだ。経済的インセンティブが働かない。いったい何に使えば良いのだろう? 電気や石油やプラスチック製品にはない新たな価値を見出さなければ。

最近の脱化石燃料、脱プラスチックの流れは、追い風だと思う。だけど、バイオマス発電の燃料というのはいかにも安直でつまらない。もっとクールでクリエイティブなアイデアはないだろうか?

2019.7.27 M. Hayashi

写真は、戸隠を散策中に見つけた蕎麦畑です。

5年前