葛と彼岸花 1/2

再び植物にまつわるエッセイです。

秋の七草 ”葛”

秋の七草のひとつ、葛(くず)。漢字で書くと葛餅や葛湯、葛切りを思い出します。それらの原料である葛粉は肥大化した葛の根のでんぷんを水に晒して乾燥させ粉状にしたものですが、その製造工程は大変手が込んでいるようです。

今年の6月、三重と奈良の県境にある高見山に登ったついでに、念願かなって森野旧薬園(奈良県大宇陀市)を訪れることができました。吉野葛といえば葛の代名詞。その元祖を名乗る森野家の工房とその背後の斜面に広がる広大な薬草園は、かなり見応えがあります。

森野旧薬園

葛の根・・・こんなに太い!

製造工程

工房・・・砕いた葛を水に晒すための船?

葛は、こんなに手のかかる作業をしても元が取れるくらい高価なものだったのでしょう。「葛粉」は、食用や薬用に利用されたようです。葛湯は、風邪を引いたとき寒気が取れ、熱を和らげます。また、「葛根(かっこん)」は、葛の根を乾燥させた生薬です。西洋医学が普及するまでは貴重な薬だったのだと思われます。

私は、葛の葉っぱの形が好きです。左右不揃いな形の葉が対になって付きますが、先端の葉だけは左右対称です。秋の七草に選ばれているのは、紫色の花がきれいで食用・薬用になるだけでなく、葉の形や全体の姿が美しいことも理由なのでは。

“雑草”としてのクズ

ところが、葛は日本在来種で外国に進出した植物(外国から見た外来種)の代表選手らしいのです。こうなると漢字で書くよりクズとカタカナで書く方が良さそう。英語では“Kudzu”と書くようです。

The Amazing Story of Kudzu(テキスト)

The Amazing Story of Kudzu – 1996 Documentary(映像)

米国にクズが初めて入ったのは、1876年、建国100年の記念行事がフィラデルフィアで開かれたとき、明治政府が日本の植物でいっぱいの庭園を出展したときだったそうです。園芸家は大歓迎。種を持ち帰り、庭に植え、花が咲き、種が飛び散り、あちらこちらに広がっていったようです。それに、クズは、家畜の飼料になったり、土壌の侵食を防ぐことができるという考えの下、伝道師的な人が現れ、米国南部を中心にクズを普及していった。すごいですねぇ。アメリカの大地で繁茂する日本のクズ。日本にやってきたセイタカアワダチソウよりすごいかもしれません。それから100年ほど経過して、クズはすっかりアメリカ南部に根付いてしまったようです。

こんな一文が載っています。

 The USDA declared kudzu to be a weed in 1972!

weedとは雑草のこと。雑草というと日本では「雑草のようにたくましい」などと肯定的なニュアンスもありますが、weedにはそんなニュアンスはまったくありません。あくまで邪魔者、駆除すべき厄介者です。

クズは、元は園芸用に輸入したものが上記の経緯で縦横無尽に広がった結果、1972年に米国の農務省(USDA)によりとうとう雑草と宣告されてしまったということです。かくしてクズは駆除の対象となるわけですが、そう簡単に駆除できるようななまっちょろい植物ではありません。英文を読んでみると「山羊にクズを食べさせると、成長を抑えてくれて、ミルクとウールを産み出してくれて一石二鳥(三鳥?)」みたいなことが書いてあります。Good Ideaだと思います。映像の中にも可愛い山羊が出てきます。

日本でも、今やクズは七草というよりは雑草です。川の土手、線路際、利用者が減った公園、休耕田や畑、空地など、完全に放置されているわけではなく定期的に手入れがされるが、その頻度が少ないような土地(ただし、日当りの良いところ)に繁茂して、多くは年に一度、初秋に業者が来て草刈り機でカガーと刈られてしまいます。でも根っこは残るので、翌年の春になるとしゅるしゅると”つる”が周囲の木々やフェンスや電柱や先に伸びた仲間のクズに巻き付いて、上へ上へ、あるいは横へ横へと伸びていきます。その勢いは、草本種類多しといえどもダントツではないかと思います。

我が家の裏山にもクズが根付いていて(クズは多年草です)、毎年、カシやクヌギ、カエデなどの常緑樹に取り付き、木全体を覆ってしまう勢いで葉を茂らせます。みっともないので、11月頃にクズの根元の方を切ることにしていますが、翌年になるとまたしゅるしゅるしゅる・・・。そのうち山羊でも飼おうかと思っています。

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M. Hayashi 2018.09.24

(続く)
葛と彼岸花 2/2

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